19.商品開発の様々なあり方

 ここまでお話してくると、差別化商品を持たない会社はすぐに潰れさるかのように錯覚する人もいるだろう。一番大事な事は、今、生活の糧を稼ぐ商品が利益を出して売れている事である。最先端産業の周辺に、様々な産業が集まって、人々が生活している。現役時代に、高級自動車の皮シートに「牛革」を供給している会社を訪ねた事がある。当然ながらバラバラの寸法形状の牛の皮を、高速で、無駄なく表面処理していて感心させられた。どんな商品でも、様々な工夫があり、生産が続けられている。いろんな商売に励んでいる。今、その商品が利益を出して売れている事が一番重要な事実である。

 ローテク、ノーテクを自認する業界では、商品開発競争への参加を諦め、海外に生産設備を移動する人々も出て来た。家電、アパレル、靴、陶磁器、成型プラスチックなどである。何せ海外への生産設備の移動で、利益は日本に送ってくることができるが、生産設備は二度と日本に戻ってこられない。

 「中所得国の罠」という言葉を知っているだろうか。一人当たりのGDPが10,000-12,000ドルに到達すると、成長が鈍化する現象を言う。後進国が給料の安さを武器に、先進諸国の生産設備や技術を導入して「世界の生産工場」として10%、15%と成長を続ける。これは簡単である。しかし、給料水準が安いメリットが無くなって、自前で世界に通用する商品開発が出来ないと成長が鈍化することとなる。

 一旦海外に移転した産業は、「中所得国の罠」に入った国から、次の移転先に移動を続けることとなる。

 窯元を廃業した人から聞いた話である。T市は人口6万人弱の陶磁器が地場産業の小さな田舎町であった。そこである陶器商人が、日本で開発された様々な設備と、T市の陶土、釉などの材料と共に中国に進出して、そこで安く生産された陶磁器を逆輸入した。その安い商品により、200軒あった窯元は、みるみるうちにたった8軒まで激減したとの事である。その陶器商人は随分稼いで楽しかったであろうが、全ての友人を無くしていったことは、想像に難くない。彼は世界放浪の旅に出発した。

 多分、その陶器商人から生産設備を入手出来なかったとしても、中国の誰かが、どこからか同様な生産設備を調達して、日本のローテク、ノーテク産業をターゲットに安いコピー商品を作ってくるだろう。月給150ドル(約1万六千円)以下の労働者が6億人も暮らしている国である。日本の製造設備を使って製造すれば、日本のローテク製造業は太刀打ちできるはずもない。日本に居たければどうすれば良いのか。早めに自身が生きている分野が後進国でも製造可能な商品しか作っていない事に気づいて、逃げるか戦うかのどちらかである。戦うならば今治タオルのように、高級化、独自化を目指す方法もある。今回のコロナマスク騒動でつくづく感心したのが、不織布とゴム紐が常識のマスクでも、工夫次第で1枚3,000円で売れるマスクが出来る。

 荷物の梱包に使うエアー緩衝材プチプチがある。安い商品である。そんな商品の用途開発に取り組む若い女性がいる。プチプチを文字通り「プチプチ」と潰して楽しむ用途、専用の緩衝材付き入れ物などを開発して、若い女性ながら専務として活躍している。結構ローテクでも頭の使いようである。ところで、自分には商品開発の知恵が出ないと若い女性に商品開発を任せて、専務にして権限を与えた社長が一番の発明家のような気がする。

 日本に居たければ、自身の体力が残っている内に、持てる知恵と力を出し尽くして、総力を結集して、新商品開発・新用途開拓に全力を尽くすことである。そうでなければ、転業することである。

Report 1 人類と創造力そして未来


目次(ClickJump)
1  はじめに
2  現生人類を特徴つける認知革命
3  認知革命はいかにして起きたか
4  農業革命とお金の発明
5  お金は世界に広がっていった
6  お金が経済を発展させてきた
7  激しい商品開発競争
8  全産業で商品開発競争激化
9  革新的大発明が社会を大変革
10  商品で会社、個人が評価
11  国は経済的合理性で評価
12  社会構造は商品開発力で評価
13  韓国社会(おまけ)
14  お金儲けは時に暴走する
15  経済的合理性と人道の矛盾
16  政治・法律は利権の塊
17  民主的統制で暴走を抑える
18  科学的な政治が必要
19  商品開発の様々なあり方
20  未来が始まっている
21  次の20年の激変
22  輝かしい未来へ
 
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◆ ホームページ発行人 林 信之
    岐阜県多治見市在住
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◆ 版権者   林 信之