9.革新的大発明が社会を大変革

 認知革命以降、現生人類は創造力で歴史を切り開いてきた。特に産業革命以降は、商品開発の中で行われた革新的大発明が社会を大変革してきた。この歴史法則は、内燃機関の発明から自動車の発明を通じて世界が激変した様子を詳細に検討すれば歴然である。

 ガソリンエンジンは、1876年ドイツ人のオット―により、ガスエンジンの改良として発明された。そのガソリンエンジン発明のわずか10年後の1886年にベンツが三輪自動車「パテント・モートルバァーゲン」を世界で初めて作り出している。そしてそのわずか20年後の1908年にはアメリカで世界最初となる量産型自動車T型フォードが販売され、累計150万台を市場に送り出している。このフォード社のベルトコンベヤー方式量産化技術も革新的大発明の一つである。チャップリンのモダンタイムズ(1936 年)は、このベルトコンベヤー生産方式をテーマとした映画であった。たった30年で自動車産業を含め、世界中の工場風景を一変させた。そして自動車は人々の手に届く価格で生産された。ちなみに、価格二百万円の自家用車を、たった1台だけ手作り生産したら、フェラーリ―をはるかに超える約2億円との試算も存在する。当然ながら、競合会社も次々に自動車量産を開始し、モータリゼーションの波を作り出した。1900年初頭には、そのブームを支えるように、高速自動車道路網の整備も始まった。ガソリンスタンド網が整備され、モータリゼーションを支えた。石油メジャーも巨大化した。エンジンは兵器も大きく変革した。1914年の第一次世界大戦で、戦車、飛行機が登場し、戦争のやり方も一変させた。ガソリンエンジンが登場してからわずか35年である。日本がアメリカと戦争したのは、ABCD(アメリカ、イギリス、中国、オランダ)包囲網の中で、石油禁輸を受けたことによる。すでにエンジン発明から60年、自動車発明から50年後には、日本は石油無しでは経済がガタガタになる状況で、戦争を決断せざるを得なかったことを示している。ちなみに戦争直前の日本の自動車保有台数は22万台(1940年)であった。自動車自体も進化し続けた。デファレンシャルギヤ、スパークプラグ、パウダークラッチ、CVT、ハイブリッドシステム。そしてエンジン発明から140年後の現在、2019年の統計データであるが、1位フォルクスワーゲン(ドイツ)1,097万台、2位トヨタ(日本)1,074万台、3位ルノー・日産・三菱(日仏)1,015万台、4位GM(米国)、5位現代(韓国)6位上海汽車(中国)7位ホンダ(日本)など、20位までの合計で8,778万台、日本メーカー総計約3,155万台と、とてつもない台数になっている。自動車の耐用年数を10年とするならば9億台近い車が地球上を走り回っていることになる。ちなみに2021年の日本の自動車保有台数は8,228万台となっている。自動車関連産業の従業員数は日本だけでも542万人いる。世界全体では5千万人をはるかに超える人々が自動車産業で働いている。

自動車は、金属鋼板、塗料、ガラス、アンテナ、タイヤ、タイヤホイール、ワイパー、ナビシステム、エンジン、ミッション、電装品、半導体などを含めて約3万5千点もの部品を集めて組み立てられている。自動車産業を取り巻く車部品メーカーをヘッドランプから調べ始めて愕然とした、Google検索で「自動車ヘッドランプ製造」と入れて出て来た会社名は71社となった。その中には小糸製作所、スタンレー電気、市光工業、今仙電機、デンソー、大嶋電機、第一化成、松下電機、村上開明堂などそうそうたる大会社が並んでいた。そのどれもが数千~万人規模の会社である。そのほかに、製鉄メーカー、塗料メーカー、ガラスメーカー、タイヤメーカーなどの自動車関連メーカーが並び、またその製造過程のNC複合盤、プレス、インジェクションマシン、ロボット、塗装機、乾燥炉など数多くの製造機械メーカーが関連している。日本の自動車関連産業で542万人ならば、2千万人をはるかに超える人々が何らかの形で自動車産業に係わっていることは間違いない。

 社会は大きく変化した。自動車、石油、鉄鋼、運輸、化学、電気、半導体、ゼネコンなどなど、様々な大企業が出現し、幅の広い高速道路網が作られた。自動車周辺の商売も激変し、広大な駐車場を持った郊外型の大型ショッピングモールが数多く作られた。ホテル、映画館、レストランにも大きな駐車場が併設された。町の構造も大きく変わった。家々にはガレージが付き、各観光地にはドライブウェイが整備された。恋人たちのデートもドライブが定番となり、カーラジオは、軽快なPOPミュージックを流し続けた。恋人獲得のために男どもはかっこいい車に乗った。ポニーテールの娘たちは流行の勝負服を着て助手席に座った。警察はパトカーに乗った。そして銀行強盗も馬から自動車に乗り換えた。そう、何もかもが劇的に変化した。

 科学もとてつもないスピードで発達を続けた。それに伴って教育・研究システムも大きく変化していった。自動車一つとっても、商品として提供を続ける為に、研究しなければならない様々な分野が存在する。燃費、車体軽量化、空力特性、タイヤ、ブレーキ、生産技術、製造技術、センサーなどである。大学の工学部には、建築、都市工学などと共に、機械、機械情報、精密工学、電気電子、マテリアル工学などが開設され、機械要素、材料力学、熱力学、油圧力学、情報工学、制御工学等々の様々な研究室が設けられた。ところで、ガソリン燃焼に「液体微粒化」は大変重要である。ガソリンの霧は細かければ細かいほど爆発的に一挙に燃える。その微粒化基礎式の中に「抜山-豊田の式」が存在するが、この「豊田」はトヨタ元会長の工学博士豊田章一郎である事は非常に興味深い。

 革命的大発明として内燃機関と自動車を取り上げたが、これと同様に1925年のトランジスタを起点とする大変化も、想像を絶する広がりを持つ。産業革命以降は特に内燃機関、自動車、航空機、量産技術、トランジスタ、コンピューター、電話、テレビ、ロボット、インターネットなど革新的大発明は枚挙のいとまがない。そのどれもが、あるいは複合して世の中を根本的に大変革し、ありとあらゆる人間生活の中にその変革の嵐が侵入してきている。

様々な革新的な大発明が、広範囲で連続する数多くの発明を引き起こし、生活、社会、政治体制、科学、仕事、文化など人間に係わりある全ての大変革を引き起こしている。お金は、発明を強烈に牽引する媚薬として働き続けている。農業革命とお金の出現以降、歴史はそのようにして動いて来た。特に産業革命以降、その動きは顕著である。

 勃興する産業があれば、その影響により数多くの産業が消滅した。消滅する産業の商品が売れなくなり、商品としての存在条件を無くす。また利益を上げられない産業もその存在条件を無くす。歴史の合理的基準により、情け容赦なく歴史の舞台から消え失せていった。それは、政治の力では止める事が出来ない。

 改めて、現在販売されている商品を眺めてみよう。狩猟採集時代に発明された衣服、靴、農業革命時代のお米、パン、牛乳、そのほかの食料品、そして産業革命以降の自動車、冷蔵庫、缶詰、テレビ、パソコン、スマートフォン。華やかに印刷されたフィルムに包まれて、現代ニーズに即して再商品化されているが、間違えなくその時代を画する商品が、経済的合理性(お金儲けできている)の結果、現代まで生き残ってきたものである。

 衣服が狩猟採集時代の発明品だとするのに異論のある方も居るだろう。現生人類は今から1万6千年前凍てつくベーリング海峡を歩いてユーラシア大陸から北アメリカ大陸に渡った。そして、その子孫がアメリカインディアンとなり、またマヤ文明やアステカ文明を切り開いた。現生人類はマンモスなどの北方巨獣の狩りを進める中で、保温の為に毛皮を縫い合わせた衣服や靴を発明した。ネアンデルタール人は比較的南側で生息していたが、現生人類は、衣服や靴の発明により極北の地まで生息域を広げ、最終的には凍てつくベーリング海峡を歩いて渡り、生息域を大きく広げることに貢献した。最近5千年前の衣服が発見されたと報道されていたが、柔らかそうな白い布で造られたブラウスで、かわいいえりまでついていた。今、お店に並んでいる衣服は最新ファッションである。これは時代に従ってリメイクされ続けた採集狩猟時代の革新的大発明品である。

 軍事研究による発明品も数多く存在する。火薬、鉄砲などの重火器、ミサイル、ロケット、原子爆弾などである。この軍事研究の中では、インターネット通信技術は商業活動の中に位置づけられて普及したため、社会を大きく変革し続けている。一般的に、兵器として開発された技術は、社会や個々人の生活を改善するには不要のため、社会を変革するインパクトを持っていない。
 現生人類の持つ創造力により人類社会が発展を続けてきた。とりわけ、商品開発による革新的大発明と、それに連続する様々な発明が、産業の勃興、消滅に深く関連し、社会構造を変えて来たとする歴史観に立つと、マルクス主義者の唯物史観「絶えず発展を続ける生産力と、固定傾向の生産関係との矛盾の激化が、生産関係を破壊する」は誤りであることがわかる。

Report 1 人類と創造力そして未来


目次(ClickJump)
1  はじめに
2  現生人類を特徴つける認知革命
3  認知革命はいかにして起きたか
4  農業革命とお金の発明
5  お金は世界に広がっていった
6  お金が経済を発展させてきた
7  激しい商品開発競争
8  全産業で商品開発競争激化
9  革新的大発明が社会を大変革
10  商品で会社、個人が評価
11  国は経済的合理性で評価
12  社会構造は商品開発力で評価
13  韓国社会(おまけ)
14  お金儲けは時に暴走する
15  経済的合理性と人道の矛盾
16  政治・法律は利権の塊
17  民主的統制で暴走を抑える
18  科学的な政治が必要
19  商品開発の様々なあり方
20  未来が始まっている
21  次の20年の激変
22  輝かしい未来へ
 
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◆ ホームページ発行人 林 信之
    岐阜県多治見市在住
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◆ 版権者   林 信之