7.激しい商品開発競争

 商品開発とお金儲けは、多くの人々の働く動機となっている。商品開発競争のお話の前に、なぜ人々は商品開発を、それこそ生きがいとして熱心に取り組んでいるのかをお話する。

 東京ビックサイト、幕張メッセ、インテック大阪、ポートメッセ名古屋をはじめ、公設、私設を含めて数多くの展示場が開設され、数多くの展示会が開催されている。幕張メッセの10月度の展示会に限っても、ガーデン、ツール、農業資材、医療機器、Japan ITなど28にも及ぶ。世界中で自動車、産業機器、住宅関係など、毎日、どこかで展示会が開催され、多くの新商品が発表され、バイヤー、消費者の購買意欲を掻き立てている。それぞれの会社は、その展示会を目指して、会社を上げて新商品を仕上げて来る。そこに参画する個々人は、それこそ寝る間を惜しんで熱心に商品開発を行い、万全に仕上げていく。

 展示会に出品する開発責任者は、展示会が始まると最初に競合メーカーの展示ブースに殺到する。そこで、競合メーカーの出品物を裏から表から観察し、根掘り葉掘り説明員に質問を浴びせ倒し、心の中でそれまでの苦労の清算・反省を行って、次への決意を固めなおす。営業担当者は、早速競合商品の弱点を分析して、自社製品のキャッチコピーを考え、戦いを開始する。美人コンパニオンがニコニコほほ笑むショーの舞台裏で、激しい戦いが展開されている。

 お客様にPRするのは、主要仕様、価格だけではない。部分、デザイン、カラーバリエーション、販売方法からお店構え、社員教育、会社の全てを掛けた取り組みとなる。何年も全く変わらない伝統的な商品を安定して供給する会社も数多く存在する。しかし、新商品は会社、社員のモチベーションに大きく影響する。有力な会社は、毎年のように新商品を生み出して、それを通じて会社を変革し、社員を鍛えて行く。蟹工船のような「搾取」「収奪」の中での嫌々ながらの「奴隷労働」の中で、新しい商品が開発されることはあり得ない。ドラッガーを持ち出すまでもない。全ての社員が、お客様の心をつかみ取るための商品開発に、それこそ生き生きと熱心に、知恵と工夫を凝らして取り組むことが必要となる。そしてそれぞれの社員は会社の商品歴史に自分史を重ね、そこでの苦労を自慢話として語ることになる。その商品とのかかわりの中で、個々人の能力が評価され、役職、給料が決まっていく。

 お金儲けの王道は、商品開発である。同じ魅力度の商品であれば、値段のたたき合いになる。そこで、だれしも他社には無い「差別化商品」開発に昼夜を惜しんで取り組むことになる。商品開発の中で、様々な発明がなされた。有名な日清食品の「チキンラーメン」、ソニーの「ウォークマン」、トヨタの「ハイブリッドシステム」などなど枚挙のいとまがない。世界に目を転ずれば最近ではスマートフォン、Windows、インターネット検索システム等である。多くの企業は、事業転換の契機となる商品開発秘話(プロジェクトX)を持っている。そして、商品開発に成功しなかった企業は、存立理由を無くして消え失せてしまった。

 差別化商品開発には、必ず重要な課題が存在する。1964年、前東京オリンピックの直前に開業した新幹線は、0系車両(一番最初のモデル)でも一車両52トンである。16両編成で約800トンの巨大重量となる。これが時速250kmで走るとなると、まずブレーキシステムが一番大きな問題となる。安全に確実にスムースに停止できるか。高速回転する円板を強烈にブレーパッドで挟み付ける油圧ディスクブレーキシステムでは間違いなく能力が不足していた。またブレーキパッドとディスク板の激しい摩耗が予測され、ブレーキの利きが全てそろっていないと危険になる。ブレーキ片効きが発生した場合、800トン、250kmが振り回されてスピンを起こし、大惨事確実である。そこで導入されたのが「回生ブレーキシステム」であった。科学館などに、ペダルで発電機を回して電気を作り、扇風機を回して風船等が浮かび上がる様な展示物を見たことがあるだろう。発電機から電気を取り出すには結構の力が必要となる。これをブレーキシステムとして使った。既に走行用として使われているモーターを発電機として使うこのブレーキシステムはコストもかからず、摩耗も無く、信頼性も高い。機械的摩擦力ではなく磁力をブレーキ力に使うこのシステムは、各車輪のブレーキ力のバラツキも発生しない。何よりも電気を回収し、省エネとなる。新幹線開発の決め手となった。そして新幹線は世界で初めて、確実に安全に停止できる高速鉄道として誕生した。

回生ブレーキシステムは日本では1928年高野山電鉄(現南海鉄道)で初めて実用化された。これはドイツAEG社からの技術導入である。急こう配の山岳地帯での列車運行時に、頻度高く摩擦力を利用したブレーキを使い続けると、摩耗も激しく、摩擦力のバラツキも発生しやすいところから採用されたものである。現在、この回生ブレーキシステムは普通電車やハイブリッドカーにも使用されている。普通電車では回生ブレーキの無い電車に比較して約30%もの省エネになっている。

今や新幹線は北海道から鹿児島まで3,300kmの総沿線距離を持ち、各地に存在するのは当たり前の風景となってきた。東京出張が当たり前の日帰り日程となり、商売の在り方や、納期などが大きく変わってきた。また、自動車産業、車両製造も相当裾野の広い産業であり、この発明が産業を活性化していることは疑い無い。このような技術は、安全、省エネを実現する日本の技術的武器となり、電車、新幹線輸出や自動車輸出を支えている。

このような発明を知ると、何時も思うのであるが、「構造が全く同じであるモーターを発電機として使えばブレーキシステムになる」との一次発想はどのようにしてなされたのであろうか。本当に尊敬に値する発明である。

 新幹線ついでにリニア新幹線について一言。リニア新幹線は注目すべき発明である。超電導による車体磁気浮上車両は世界でまだ実用されていない。リニア新幹線は時速500kmで実現するが、もっと高速で長距離を安全に多数の旅客を運べる技術が確立されれば、日本の60倍も広いアメリカ等では航空機に代わる高速安全大量移動輸送手段として大歓迎されるのは間違いない。また抵抗の無い超電導送電は省エネに大きく貢献する。高速リニア輸送技術は、工場内や、将来の都市間輸送にも応用可能であろう。バックトゥザフューチャーの空中浮揚デロリアン型超高速トラックの実現である。例えば現在の高速道路の脇に直径3m程度のチューブを建設し、その中にリニア・デロリアン型超高速無人トラックを走らせ、東京-名古屋間を20~30分で運行する。物流革命が起きるだろう。

リニア新幹線は一刻も早く実用化し、新技術の実用面での問題点、実現コストを出す必要がある。その新しい技術は他の産業分野に急速に広がっていくだろう。日本が、世界が発展する。川勝知事よ、富士川の水量がもし減少するような事があったら、JR東海に井戸を多数掘らせ、そこからの湧き水を使うことで納得頂けないだろうか。政治が、新技術開発を止めるのはおかしい。政治が先端技術開発に「二番では駄目ですか」と言うのはおかしいが、利権構造についてはあとからお話する。

この新幹線の回生ブレーキシステムの応用技術として、トヨタ・ホンダのハイブリッド自動車がある。ここで差別化商品開発に遅れをとった競合メーカーの悪あがきのお話しをしよう。インターネット情報なので真偽は少しあやしい。だから、この話しは全部「作り話」である。1999年に回生ブレーキシステムを含む電気・エンジン複合システムを搭載したハイブリッド自動車プリウスがトヨタから発売された。革新的な内容で、10モード燃費は従来の約二倍、これが世界を席巻してしまったらヒュンダイ自動車の危機になる。そこでヒュンダイ自動車は、トヨタにOEM販売を持ちかけた。OEM販売とは、名前だけを変えてヒュンダイ自動車から販売することである。これは拒否された。そこでこのハイブリッドシステム技術の販売(有償特許使用許可)を求めた。トヨタはこれも拒否した。そこで自社が調査・研究の為に購入したプリウスの保守交換部品の販売を求めた。見積が相当高額になりヒュンダイ自動車が激怒。なお、競合商品研究の為に購入したプリウスの心臓部であるコンピューター制御部のカバーを開けたところ、防御システムが作動して内蔵プログラムが消去されてしまったとの情報も存在する。そこで、ヒュンダイ自動車は、プリウスは600Vの高電圧を使うから危険であるとか、バッテリーの寿命が短いとかの逆宣伝をアメリカでし始めた。また、同様のシステムを独自開発していたホンダに働きかけを始めたが、ホンダからも拒否された。そこでようやくしぶしぶ自社で開発を始めた。クリーンディーゼルを積極的に取り組むとともに、まずは、特許を回避する為に回生ブレーキシステムを含まない電気・エンジン複合システムを搭載した自動車を数台作り、自国の公官庁に納入した。結果、燃費が悪化してとん挫。最終的に様々なトライを続けて、アメリカのような高速道路主体の国であれば、ガソリン車の70%程度の燃費を確保できた様子で、プリウスにデザインそっくりの直噴エンジンを積んだアイオニックスをプリウスキラーと銘打って販売している。でも低性能のためか売れ行きは芳しく無い様子である。

 ハイブリッドカープリウスに対抗する競合各社の対応が結構面白い。真っ向から対抗システムを開発したホンダ、クリーンディーゼルを採用したマツダ、主力を電気自動車や自動運転においたルノー日産三菱、トヨタとの連携を選んだスバル、アイドリングストップやサポカーで対抗したスズキ。一つの発明が、連続する様々な発明を引き起こし、様々な波紋を巻き起こす。

 全ての分野で激烈に商品開発が展開されている。差別化された新商品が販売されると、競合メーカーは慌ててそれと同等以上の商品を開発する。開発競争に負けてしまえば会社が倒産する。新発売から10年間も売れ続ける商品なんて存在しない。競合メーカーが許してくれない。その結果、機械、機器の性能は日増しに向上する。自動車、パソコン、スマホ、航空機、船、戦闘機、船、ロケット、道路、港、ソフト、ゲーム、野菜、果物、お酒・・・20年もすれば昔がどうだったか分からなくなるほどである。「絶対に負けられない戦いがそこにある。」

 トヨタ自動車、本田自動車、日産自動車など競合メーカーは、常に対抗出来得る品揃えを用意している。当然であるが、その車種を作る技術が無ければその需要層の販売を奪われる結果となる。ライバルの開発情報は相当大事である。合法的にどうするか。特許情報(工業所有権)の活用である。特許は、発明者に、出願日から最大20年の独占的販売権を保障する制度である。膨大な金と時間をかけて苦労して発明しても、発明のまねが許されるならば、ある程度の知識があれば容易に、短時間にまねができてしまう。その結果、誰も手間暇かけて商品開発を行わなくなる。この制度では、特許出願から6か月すると、自動的に特許庁から公報で出願書類が全文公開される。この情報が重要なのである。大メーカーには必ず工業所有権を管理する部門があって、そこで競合他社、関連事業分野の特許出願を常時監視することになる。国際特許公認機関は存在しない。各国がそれぞれの国に特許庁を持っている。2020年の主要国の特許出願件数は1位中国1,328,067件、2位アメリカ521,735件、3位日本453,816件など20位までの総合計は約316万件である。パテント分類は細かく約800程度に分類整理されているが、数分野常時監視することになっても大変である。言語も様々な(主に英語)特許出願公報を毎日100~200も目を通して、「パテントマップ」を作ってライバルメーカーの技術開発動向を分析する。自社にとって致命的な競合他社出願特許を見つけると、出願日より前の公開情報(学会誌、論文、他業界や海外特許等々)を探し回って、特許庁に情報提供して、特許成立を妨害する。我々の目の届かないところで激しい戦いが展開されている。とにかく特許が成立してしまうと厄介である。「特許侵害商品」は「製造差し止め命令」が来る。現在、中国と世界各国の間で、工業所有権の取り扱いや、産業スパイをめぐって紛争となっているが、各国とも必死である。

 今、世界中の自動車メーカー間で「自動運転」「AI」「固体電池」「充電システム」「水素エンジン」「センサー」などで凌ぎを削る特許出願戦争と、特許防衛戦争が展開されている。アイテムはわからないが、間違いなくその次の10年、20年をめぐる技術開発競争も激烈に展開されはじめている。

 特許制度は1474年にイタリアのベネテツィア共和国で初めて法制化された。その後イギリスで1623年に法制化されて本格的に運用が開始されている。1474年は日本の室町幕府とそれに引き続く戦国時代にあたる。1600年は関ケ原の戦いである。そんな頃からお金儲けのための商品開発競争が激烈に展開され、「まねした」「技術を盗んだ」「卑怯者」と大社会問題になっていたと推定される。そして1769年にジェームス・ワットの蒸気機関の発明により産業革命が始まる。つまり室町時代には、ヨーロッパで激烈な商品開発競争が展開されていた証拠である。

Report 1 人類と創造力そして未来


目次(ClickJump)
1  はじめに
2  現生人類を特徴つける認知革命
3  認知革命はいかにして起きたか
4  農業革命とお金の発明
5  お金は世界に広がっていった
6  お金が経済を発展させてきた
7  激しい商品開発競争
8  全産業で商品開発競争激化
9  革新的大発明が社会を大変革
10  商品で会社、個人が評価
11  国は経済的合理性で評価
12  社会構造は商品開発力で評価
13  韓国社会(おまけ)
14  お金儲けは時に暴走する
15  経済的合理性と人道の矛盾
16  政治・法律は利権の塊
17  民主的統制で暴走を抑える
18  科学的な政治が必要
19  商品開発の様々なあり方
20  未来が始まっている
21  次の20年の激変
22  輝かしい未来へ
 
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◆ ホームページ発行人 林 信之
    岐阜県多治見市在住
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  smilehayashi@wh.commufa.jp
◆ 版権者   林 信之