4.農業革命とお金の発明

 高度な言語の確立による認知革命で創造力(知恵)を手に入れた人類は、世界各地で「農業革命」を巻き起こした。その中で村、国、都市を作り上げ、文字、数字、宗教、法律を編み出してきた。分業もはじまり、商業が発生して、その過程でお金が作られて来た。  農業革命はBC9,000年からBC2,000年までの間に、それぞれ独立してアフリカ西部、アフリカ東部、チグリス・ユーフラティス、インド、黄河流域、アメリカ東部、メキシコ、ペルー、ベネズエラなどで起きている。それぞれ主要な農産物は小麦、稲、モロコシ、ヒエなど様々である。

 日本でも、青森県の三内丸山遺跡(BC5,900年~BC4,200年)は、1,700 年間にわたり、広大な栗園を経営し、漁労を行い、500人規模の集落が誕生させている。北海道の黒曜石や糸魚川のヒスイも発掘されているところを見ると、丸木舟を操り、広く交易も展開していた。世界的にみても素晴らしい。その他にもすでに縄文時代中期(BC6世紀)の、稲作の集団農場や倉庫(校倉造)、灌漑用水の遺跡が発掘されている。

 さて、当時狩猟採集生活の中で、何時も通る道の脇にこぼれた種から芽が出るのを見た人々が、意識的に小麦等の植物を育てはじめ、それが長い期間、世代をかけて人々に広まっていった。農業革命のはじまりである。それまでは狩猟採集生活に有利なように移動生活をしていたが、石や木の根っこを抜き、水を引き、苦労して開拓した畑の横に家を建てて家族で定住生活を開始した。当然ながら、開拓した畑はその家族の所有である。個人所有が始まった。農業に適した川に面した平らな土地等に、徐々に多くの家族が集まり、やがて、土地争いや盗難など様々なトラブルも発生した。家族の生活の糧を得る個人所有の農地である。引っ越すわけにはいけない。話し合いの場であるコミュニティーも発達し、村長などが出現した。生産性を上げる為に、灌漑設備、貯蔵設備の建設などもはじまり、コミュニティーもますます発展して、数千人~数万人規模となっていった。部族長、国王が出現して、部族、国が出来上がった。また、交易や商売のきっかけとなる分業も始まった。「納税」も始まり、文字が発明された。社会秩序を維持し外国と戦う専門集団の軍隊が作られ、都市は外的侵入を阻止する外壁やお城が築き上げられた。また秩序維持の為に法律が作られ、民族集合の象徴である宗教も発達した。誕生した神々は国王の正当性とその法律の正しさにお墨付きを与えた。

 そもそも「農業革命」も「革新的な大発明」である。この「革新的な大発明」は「広範囲で連続する様々な発明」を生み出して、人間生活、社会、経済、思想、宗教を根本から変えてきた。その過程の中で科学・技術も急速に発達する。農業革命の時代に、現代社会を構成する仕組みの基礎が確立された。その過程の中で「お金」が発明された。

 紀元前6千年頃、世界最古と言われる「シュメール文明」の納税事務の中で、初期的な文字、簿記、数字、算数などが発明された。それは現代社会にまで巨大な影響を与え続けている。お金の原始的発生の痕跡も残されている。シュメール人の書記(クシム)が作った粘土板に「29086 大麦 37か月 〇〇〇 クシム △△△(〇△は解読不能な絵文字)」などと記されている。「小麦貨幣」が存在したとの説もある。確かに社会の分業も始まっていたようである。だから、書記のオシムには「小麦」が給与として支払われたり、その「小麦」でパンや服と交換できたりしたであろう。しかし、この粘土板に書かれた絵文字には貨幣誕生の証拠は無い。貨幣流通の基礎となる数学は確かに始まっていた。また、トークンと呼ばれる日干し煉瓦片に刻みを入れた記録物が発見されている。これも交易の記録とみられている。ところで、世界最古の文明を築いたとされるシュメール人は、国や租税、文字、数字はもとより車輪、ネジ、梃子など様々な機械要素を発明し、人類史上、特筆すべき人種である。

 時代が下ってBC1776年頃、当時世界最大のバビロニア帝国のハンムラビ法典の中に様々な判例が残されている。以下は「サピエンス全史」からの抜き書きである。
・198 もし一般自由人の目を潰したり、骨を折ったりしたなら、その者は銀60シュケル(重さの単位)を量り、与えるものとする。
・199 もし上層自由人の奴隷の目を潰したり骨を折ったりしたら、奴隷の価値の半分(の銀)を量り、与えるものとする。
・211 もし一般自由人の女を打ち、そのせいで女が流産したなら、その者は胎児のために銀5シュケルを量り、与えるものとする。
・212 もしその女が死んだら、銀30シュケルを量り、与えるものとする。
・213 もし上層自由人の女奴隷を打ち、そのせいで女が流産したなら、その者は銀2シュケルを量り、与えるものとする。
・214 もしその女奴隷が死んだら、銀20シュケルを量り、与えるものとする。 などの秤量貨幣が存在していたことを示す記述が複数存在する。お金の登場である。バビロニアでは通貨として銀が使用され、シュケル(8.33g)なる重さを秤量して使用されていた。当然ながらある貨幣が社会に流通する為には、様々な条件が必要となる。まずは銀30シュケルが上層自由人の女の殺人の罪として妥当と全ての人が認める権威と信用を持っていることである。そして数々存在する商品の売り買いを支える大多数の人々の数学的知識である。お金が流通する為には、基礎的な数学的知識が必要となる。A商品320円×5+B商品128円×3+C商品456円などの複雑な計算をある程度の速度でしなければならない。お客も詐欺にあわない為には同様の計算能力が必要となる。また自分が売る商品がしっかりと利益を確保していることを確認するために簿記などが発達する事になる。このようにお金は、人々に数学を理解することを強制的に求めることとなる。計算できないバカ者は損するというペナルティ付きで。

余談ではあるが、日本人は素晴らしい。アメリカで2ドル73セントの商品を購入して50ドル札を店員に渡してみよう。日本人が店員ならば47ドル27セントのおつりが即座に手渡される。しかしアメリカのおつりは、まず1セント硬貨を4、5、6、7、8、9、80セントとカウントコールしながら一枚、一枚と手渡される。そこからは10セント硬貨で90、3ドルとして延々と支払った50ドルまで、おつりのカウントアップに付き合うことになる。はじめは何が起こったかと戸惑う。100ドル札で払わなくって良かったと心から思う。一方、日本に来た外国人は瞬時に突然渡される正確なおつりに驚いたり、疑いを持ったりする。一方、大半の日本人客はおつりを自分でも計算しているため、チラッと金額を目で確認し財布にしまい込む。日本人は結構優秀なのである。

Report 1 人類と創造力そして未来


目次(ClickJump)
1  はじめに
2  現生人類を特徴つける認知革命
3  認知革命はいかにして起きたか
4  農業革命とお金の発明
5  お金は世界に広がっていった
6  お金が経済を発展させてきた
7  激しい商品開発競争
8  全産業で商品開発競争激化
9  革新的大発明が社会を大変革
10  商品で会社、個人が評価
11  国は経済的合理性で評価
12  社会構造は商品開発力で評価
13  韓国社会(おまけ)
14  お金儲けは時に暴走する
15  経済的合理性と人道の矛盾
16  政治・法律は利権の塊
17  民主的統制で暴走を抑える
18  科学的な政治が必要
19  商品開発の様々なあり方
20  未来が始まっている
21  次の20年の激変
22  輝かしい未来へ
 
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◆ ホームページ発行人 林 信之
    岐阜県多治見市在住
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◆ 版権者   林 信之