3.認知革命はいかにして起きたか

  認知革命がどのように起きたのかを、可能な限り詳細に検討することは、人類とは何者か、そしてその発達方向を探る上で大変重要である。

 多くの科学者が明らかにした7万年前の現生人類の「認知革命」について少し考えてみよう。現生人類より脳容量の大きいネアンデルタール人は、現生人類の存続期間20~25万年より長い30万年間存続した。彼らはヨーロッパ南部の洞窟の中に、「人骨」、打製石器、生活痕、交雑したと見えて現生人類の中にDNAを残して、今から2万数千年前に絶滅した。彼らはホモエレクトスと同程度の旧石器時代を抜け出すことも出来なかった。この地球上で抽象思考や創造力を獲得したのは現生人類のみで、農業革命、産業革命などを含めて数々の文明を作り出し、人工物に満ち溢れた現代社会を築き上げたのは、疑問の余地も無い事実である。

 この認知革命は、7万年前に紅海を渡って世界に移動し、シュメール文明など数々の古代文明を切り開いた部族のみで起きたわけでも無く、アフリカ西部へ移動していった部族にも広範に影響を与えていた。7万年を前後して、それまでに見られなかった数々の洞窟画などが発見されている。また農業革命は西アフリカでも引き起こされている。この事実から、認知革命は科学者が推定しているような「突然変異」により、ある特定の個人で起きたのではなく、人類全体で起きたと考える方が合理的である。それはどのように起きたのであろうか。全ては何も記録も証拠も存在しない超古代の出来事である。

 ある天才が出現し、認知革命を準備し、それが広まっていったのではないかと推定している。認知革命を担った天才が何を工夫・発明したかは不明であるが、自然の法則、季節や時間や空間の概念、神などの抽象事象に単語(概念)を与えたのではないだろうか。このReportのテーマでもあるが、革新的な発明、発見がなされた場合、続発する様々な発明があとに続き、社会、経済、文化、科学を大きく変革し、日常生活そのものを変えてしまう。7万年前の超古代でも同様のことが起こった。人類全てが創造力や抽象思考を一挙に手に入れたとは考えられない。ある天才が従来と違う概念を言葉にし、それが広まって、集団知を呼び覚まし、雪崩現象的に人類全体に広がっていったと考える方が自然である。ある天才の文字の発明により、記憶(記録)の革命が起き、ニュートンの微分積分の発明により産業革命が準備され、アインシュタインの出現により量子力学は発達して核エネルギーが解放されたように、一人の天才により時代は大きく変化してきた。ある天才の発明した抽象事象の概念は、言葉として広まっていったと推定される。約7万年前現生人類の人口は数十万人と推定されている。15~20人前後の血縁家族単位で生活していたとしても、高々数万家族である。東部アフリカのサバンナ地帯で生活していた現生人類に数千年の時間の中で広がっていったのではと推定される。ユーラシア大陸から北南米の遺跡から穴を通過した太陽光がある特定の石のレリーフ模様を指し示し、春秋分をさし示す仕組みが数多く発見されているが、これは大移動を開始する前に、太陽の動きと季節の関係についての概念(言葉)が完成されており、それが人類全体で共有されていたことを示すものである。

 サバン症候群をご存じだろうか。自閉症などの子供の中に、例えば音楽や絵画、数学、記憶などで特異の才能を示す子供たちがいる。鉄道のすべての駅名を諳んじたり、習ってもいないのに芸術的絵画を描き上げたり、一回聞いただけで難しいピアノ曲を演奏したり、とんでもない計算能力を発揮したりする。写真のような記憶力を持つ子供たちも存在する。最近の脳科学研究では、脳の通信と計算をつかさどるニューロンは、幼児期に環境に合わせて大量に減少して、必要な物のみが残るとされている。約20万年の間、現生人類脳容量は平均1,350mlと大きな変化は無いが、まだまだ人間の能力の全てが引き出されたわけではなさそうである。

 抽象事象を含む言語の確立は、巨大な影響を与え、現生人類の急速な進歩を促す事となった。人は、言葉で思考し、知覚、聴覚など五感で得た情報も、思考した事なども全て言葉に関連付けられて記憶している。人々の様々な経験は言葉によって情報交換された。その結果、他人の経験を利用する集団知が生まれる事となった。単に自然物をそのまま利用するだけでなく、様々工夫して使う事を集団知の中で見出していった。創造力を手に入れたのである。現生人類は言葉を使いこなし、それによって大脳を使いこなすことに成功して動物界から抜け出すことに成功した。

 抽象事象を含む言語は、人類全体に広がっていった。今、言語は人類にとってあるのが当たり前であるが、チンパンジーなどの先祖から枝分かれした二百五十万年前から営々として積み上げて来た高度な技術であり、現生人類より脳容量の大きいネアンデルタール人では無く、現生人類のみが持つ、特筆すべき最大の発明品である。しかし超古代に為されたこの大発明の記録は存在しない。現在、ジャングルの奥などで文明と隔絶し生きている原住民も、既に認知革命を経てユーラシア、南北アメリカ、オーストラリアに移動して来た立派な現生人類であり、すでに高度な言語を保有している。つまりは全て探りようのない超古代の出来事であり、人類にとって大変重要な事実であるが、研究方法すら存在しない。

 「幼児教育と脳:澤口俊之:文春新書」は本当に興味深い。認知革命とは「言葉の発達」だとの思いで読んだ本であるが、示唆に富んだ本である。詳しくはこの本を一読されたい。ここで書ききれなかった数々の豊かな人類の将来が詳述されている。

Report 1 人類と創造力そして未来


目次(ClickJump)
1  はじめに
2  現生人類を特徴つける認知革命
3  認知革命はいかにして起きたか
4  農業革命とお金の発明
5  お金は世界に広がっていった
6  お金が経済を発展させてきた
7  激しい商品開発競争
8  全産業で商品開発競争激化
9  革新的大発明が社会を大変革
10  商品で会社、個人が評価
11  国は経済的合理性で評価
12  社会構造は商品開発力で評価
13  韓国社会(おまけ)
14  お金儲けは時に暴走する
15  経済的合理性と人道の矛盾
16  政治・法律は利権の塊
17  民主的統制で暴走を抑える
18  科学的な政治が必要
19  商品開発の様々なあり方
20  未来が始まっている
21  次の20年の激変
22  輝かしい未来へ
 
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◆ ホームページ発行人 林 信之
    岐阜県多治見市在住
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